事務所移転に向けたエネルギー、アドレナリンも切れ、ここのところ疲れ気味な日々でしたが、ようやく通常運転となってきました。
相続にあたっての遺産分割協議は主たる業務の一つであるところ、遺産分割で揉めていない場合でも相続手続のお手伝いを業務として行っています。先ほど、移転後の最寄りの小さな郵便局に相続関係書類を出してきました。周りに弁護士事務所がほとんど無い郵便局なので、この手の書類はめったに見ることがないそうで、書類の受領だけでかなりの時間がかかりました。
今後お世話になることが多くなるのでよろしくと、ご挨拶をしてきました。
さて、この相続手続、ご遺族の直面するハードルの一つが、亡くなった方の戸籍の取得です。生まれてから亡くなるまでの戸籍を順々に集めていきます。本籍の移動が少ない方であれば、それほどの量にはならないのですが、戦前に養子になっていたり、解消されたりと、色々戸籍を読み解くのが難しいケースもあります。旧樺太や満州生まれとなると、最難関といったところです。
そもそも、何のためにこれをしなければならないか単純化して言うと、「他に子どもがいないかどうか」を確認するためです。ご遺族が知らないことも無いわけでは無いんです。
従前は一式そろえた戸籍を法務局や各金融機関に提出しては、返してもらい、次に提出、ということをやっていました。
法務局の法定相続情報制度ができてからは、法務局に一式提出した後は、法務局発行の法定相続情報一覧図1枚を金融機関に提出すれば足りるようになりました。
次のハードルは、各金融機関まちまちの書式の書類作成です。
委任状一つとっても、色々な要求事項があり、「全部自書で」という指定がやっかいです。
長寿命化に伴いご遺族も高齢となっています。今後ますます高齢化していく社会で、全部自書が可能なのか、要求する合理性があるのか、大きな問題となっていくかもしれません。
こうした相続手続のハードルは、既に実際に社会問題となり、立法の手当がされています。
法改正により、不動産の相続登記が2024年4月1日から義務化されました。
これまでは義務ではなかったんです。普通は相続登記しますけど。
売る段階で、相続登記がされていないことがわかり、遡って必要書類を集め、相続登記をするということも結構ありました。
登記制度を知らない、あるいは、上記のような書類集めの高いハードルのためにあえて相続登記をしないということもままあったわけです。
近時問題となってきたのが、「空き家」と「所有者不明土地」という社会問題です。
土地や建物が放置され、建物の壁材が道路に落ちそうとか、倒れてきそう、草ぼうぼうの空き地が迷惑、という問題がある際、誰のものかを調べるためには法務局で登記を見ます。
しかし、相続登記がされていないために、誰のものかわからないということが多々あるのです。
人口減少局面では、従前スプロールにより拡張してきた都市が、縮小あるいはスポンジ化していくということが社会の課題となっており、近時、空き家特措法、所有者不明土地法、区分所有法改正、森林経営管理法、民法改正等々、急速な立法がされています。
私も大学院で都市法のこの点を研究しています。
相続登記の義務化もこの動きの一つです。
法律は通常、不遡及といって、遡って適用されることはほとんどありません。
ですが、相続登記の義務化は、遡って適用されます。過去の相続も10年以内に相続登記しないと過料が科せられます。
とはいえ、日々、相続業務を行っている立場からすると、本当に可能なのか、という懸念もあります。
森林などは、何代にもわたって相続登記されていない場合があります。
何代も遡って相続登記をするとなると、どれだけの範囲の人の署名、印鑑証明書の交付が必要となるか。知らない親族とどう連絡を取るのか。
署名、印鑑証明書の交付が得られない親族がいる場合、その人の住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割調停を申立てなければなりません。
年月が経過するほど、手続は大変になってくるので、早めの対処をお勧めします。
画像は法務局ホームページより