5月末に事務所を移転するべく、現在移転先の建物の改修工事中です。
そのコンセプトはおいおい説明するとして、その背景事情として、昨年訪れたカールベンクス氏の竹所集落訪問時の報告書をアップします。
1 竹所集落
2022年11月10日午後、カールベンクス氏の自宅や同氏が改修した古民家が多数所在する竹所(たけところ)集落を自動車で回り、外観と集落の雰囲気を見て回った。
竹所集落は、放棄された古民家が多数あったいわゆる限界集落であったが、カールベンクス氏が次々と古民家を改修し、それらの建物を購入する移住者が増え、子供や人口が増えたことで注目されている。NHKの番組で話題となり、見学者も多いところ、一般家庭なので、歩いてじろじろ見るのではなく自動車から見て回る程度にして欲しいと事前に要請があった。
晩秋の平日の午後ということもあってか、集落はひっそりとしており、生活感はそれほど感じられなかった。改修済みの家を購入しても別荘として利用している人たちもある程度いるようである。景観、雰囲気を害するような工作物もなく、カールベンクス風なカラフルな外装に美しく改修された数々の家が林の中にある様子は、高級別荘地のような印象であった。
ベンクス氏の自宅の近隣では、改修工事がまさに行われている現場があった。古民家の柱、梁等の骨組みを利用し、クレーン車で新しい材木を足している状況であった。改修というより、再利用を前提としての解体、材を利用しての再建築といえるものであり、かなり費用がかかるであろうと見てとれた。
2 2022年11月10日、カールベンクスゲストハウス宿泊
竹所集落から車で15分ほどの松代(まつだい)の中心街(ほくほく線松代駅周辺)にカールベンクスカフェとカールベンクスゲストハウスがある。カフェでチェックイン手続(午後3時まで)をして、ベンクス氏が改修したゲストハウスに宿泊した。
建物内部は元々の立派な梁を見せ、古い民具の表層を利用するなどして、古民家としての雰囲気を残しつつ、現代の設備もセンス良く馴染むようにデザインされて設置されていて、これぞベンクス氏のなせる業という印象であった。
3 2022年11月12日カールベンクス氏ヒアリング
カールベンクス・小野塚&アソシエイト有限会社、カールベンクス建築設計事務所は、松代中心街のカールベンクスカフェの2階にある。午前11時からカフェで食事をする予約をして、その前に時間が会えばベンクス氏のヒアリングができるというアポイントであった。同日午前11時30分からは高齢女性を中心とした団体が2階事務所でベンクス氏の話を聞いて、その後カフェで食事をする、その様子をNHKが撮影しているというベンクス氏の多忙な様子が見てとれた。
ベンクス氏は、日本全国で65軒の古民家を再生してきた。曲がった材の利用、四角い穴(ほぞ)、継手など、ヨーロッパでは見られない高い技術が日本の古民家にはある。その価値を見出し、技術も継承すべきであると考えて再生を行ってきた。
竹所に来たのは偶然であった。1980年代中旬、ベンクス氏は、ドイツに日本家屋を建てる仕事をしており、ドイツの新聞で飛騨高山の記事を見て、大きな梁を探しに日本に来た。知人から新潟にはあるのではないかということで竹所に来たところ、美しい風景に感動して、空き家と取得、改修、移住を決めた。
竹所は最大で38軒の世帯があったが、ベンクス氏が来たときには9軒、さらには5軒まで減少した。ベンクス氏が12軒再生し、現在は17軒ある(移住者の様子はテレビ番組で紹介されているとおりである。)。
ベンクス氏の自宅の屋根は茅葺である。冬にはカバーをかけており、30年経過しているが状態は良い。葺き替えには1500万円、修理には800万円かかるとされている(なので、竹所の他の再生物件では茅葺にはしていない。)。
4 私見
「カール・ベンクス-よみがえる古民家」(増補版)柚木崎寿久、渡邊久男(新潟日報事業社)によると、改修対象の建物は、建物自体が古いため、住宅ローンが組みにくく、購入者は、貯蓄のあるリタイア世代が多いとのことであった。
上越市安塚区の方に、竹所地区の印象を伺ったところ、ベンクス氏の改修物件は2~3000万円じゃすまないかなりの額であり、それを支払ってくる人たちはそう簡単に放棄したりしないのではないかという印象を持っているとのことであった。
ベンクス氏は現在80歳であるものの、まだまだエネルギッシュに活躍されているところであるが、将来的に竹所の改修された建物がどのように次の世代に承継され、地域がどのようになっていくのか注視していく必要がある。一世代のブームで終わらせてはならない。