札幌は早くも雪が降ったそうですね。こちらも紅葉から落葉へと景色が変わっているところです。それにしてもまわりは落葉樹だらけで、毎日雨なので、濡れ落ち葉が積もっているような状態です。

さて、昨日大統領選挙が行われました。事前の予想では、フロリダとオハイオが勝負の分かれ目と言われていたところ、その両方を取ったブッシュが勝ちました。得票状況の分布図を見ると、綺麗にその特色が塗り分けられています。通常、日本人が「ここがアメリカだ」と思う場所、ニューヨーク、ワシントンDC、マサチューセッツ(ボストン)、イリノイ(シカゴ)、カリフォルニア、ワシントン(シアトル)、オレゴン、こうしたところは全てケリーが勝ち、これらの北東部、西海岸を除いた全ての場所でブッシュが勝ちました。面積で見ると、圧倒的にブッシュ色です。私たちからよく見えない農業国アメリカがあるのだろうと思います。

大統領戦だけでなく、いろいろな投票も同時に行われました。オレゴンの土地利用に関して極めて重要な法案「M37」の住民投票が行われ、60パーセントの得票で成立しました。この法律は、各種土地利用規制により生じる地価の減少を政府が補填するというものです。住民による発案がなされ、住民投票により成立しました。そこで、日本でも複数の図書で取り上げられているオレゴン州の土地利用規制を紹介します。

オレゴン州では、1973年、土地利用法が成立し、同法に基づき、都市部をむやみに広げないための「都市成長限界線」を定めてきました。「サスティナブル・シティ」(学芸出版)の著者、川村健一氏の第143回都市経営フォーラム講演録(日建設計HPより)によれば、シアトルでは、38%の人口が増えるときに、87%も市街地を開発して広くなったのに対し、ポートランドでは、77%の人口がふえて、外に向かって増えた市街地はわずか6%であるとのことです(70年代から90年代にかけての数値だと思われますが、同講演録からは不明です。)。

たしかにポートランド市域では、私の住んでいる所もそうですが、2階建て程度の集合住宅群が各地にあります。これは、政策により導かれています。オレゴン州が、市民参加、土地利用計画、農地、森林保全、各種環境保全、経済発展、住宅、交通、都市開発等19の政策目標を掲げ、各自治体がそれぞれ自分の地域に該当する目標を取り上げ、マスタープランに盛り込みます。各自治体は詳細なゾーニングを定めます。私の住むレイクオスウェゴ市(人口およそ35,000人、面積27平方㎞)を例にとると、住居地域11種、商業地域8種、工業地域2種、行政地域1種と、多様なゾーニングがなされています。連邦法により、全ての自治体が、手頃な値段、家賃の住宅を用意するよう要請されているところ、ポートランド市域では成長管理政策もあいまって、熱心に集合住宅を作っています。ただしほとんどが低層です。ポートランド都心部には、日本のマンションのような高層の住宅も多少あります。交通の便が極めて良いので、人気があり、家賃が高く保たれています。市役所も都心居住を推進しています。

都市成長管理線の中か外かで地価に大きな影響がありますので、郊外に土地を所有している人々にとっては、深刻な事情です。成長管理政策に加え、湿地の保護、さらには野生生物の保護等の環境規制により、建物が建てられなくなったりします。こうした政策による地価下落の損失を補填しようというのが、先のM37です。この問題は「テイキング」といわれ、古くから議論の対象となっています。

行政目的のために、土地を収用するのが本来の「テイキング」であり、この場合には、当然行政が地価を支払います。アメリカだけでなく日本の憲法でもこのことが保障されています。行政がその土地を使用する場合でなく、土地利用を規制された場合にも補償が必要かどうかというのが問題です。レンガ工場を営んでいた業者が、周りに住宅地が広がり、行政によりその場所での工場の操業を禁止されたため、その規制の無効を争った裁判で、1915年、連邦最高裁は規制を有効としました。他の場所でも工場を営むことはできることが理由の一つとして示されています。他方、石炭会社が、地盤沈下を理由に採掘を禁止されたことを争った裁判で、1922年、連邦最高裁は規制を無効としました。これにより、土地の本来の目的の経済価値を全て奪うことになる場合は、補償なしでは規制できない、逆に言えば全ての価値を奪うことにならなければ補償は不要という判例法が確立されました。商工業地域であれば儲かっていたのに、住居地域とされて損失を被った補償がない限り無効だ、としてゾーニング規制を争った裁判で、1924年、連邦最高裁は、ゾーニング規制を有効としました。この判例により、現在のゾーニング規制が成り立っています。

長らく自治体の土地利用規制を裁判所が無効とすることはなかったのですが、レーガン、ブッシュ(父)の共和党政権時代に任命された裁判官が多数を占めるようになると、事情が変わってきます。行政が、海岸の眺望確保のための規制に基づき、人々が海岸に出るための通行を認めることを条件に建物の改築を許可した事案では、連邦最高裁は、規制目的と関係がないからテイキングにあたり補償が必要としました。また、水域保護のために大型商業施設の土地の一部の利用を制限したオレゴン州タイガード市の事案では、制限部分が大きすぎるということで、テイキングにあたり補償が必要としました。こうした流れで、連邦法で、土地利用規制により生じる損失を行政に補償を義務づけるテイキング法案も提出されましたが、クリントンが拒否権を行使して廃案となりました。

そして、オレゴン州では、住民がこのテイキング法を住民発案の手続きにより提案し、このたび住民投票の結果、州法として可決されました。素朴に考えると、行政目的による規制により、個人が損失を被るのだから行政が補償しようというのは理解しやすいです。しかし、こうした土地利用規制がなければ日本のように、隣に突然とんでもないものが建ったりすることが生じ、アメリカの事情を考えると地価が下落することがあることが見落とされがちだったのではと思います。また、土地利用規制の緩和により、巨額の利益が生じることは、日本の近郊農地を見れば明らかですが、こうした利益は、高率の税等により行政に還元されるのかというとそうではなく、バランスを失しているように見えます。この法律も、今後裁判でその有効性が争われていくことになるでしょう。

さて、最後に日本の事案について若干述べます。10月末、国立市の大学通りの景観を根拠にマンション建設についての損害賠償、20メートルを超える部分の撤去を求める裁判について、1審判決破棄の控訴審判決が出ました。1審の東京地裁八王子支部判決は、既に建っている建物の撤去を、しかも景観の利益に基づき認めたことで大変注目されました。しかし、今回の東京高裁判決は、景観に基づく請求自体を否定しました。新聞記事しか見ていませんが、景観は行政により守るべきものであって、個人が個人の利益として損害賠償等の根拠とすることができるものではない、というのが主たる理由のようです。たしかにそうです。自分の土地から見えていた美しい景観を遮られたという場合は、眺望が害されたとして不法行為の対象となることは判例でも確立されています。しかし、景観の良い通りを保つには、この理屈は使えませんので、不法行為として扱うのは理論的に極めて難しいのです。

先に述べたレイクオスウェゴ市のように、場違いな建物が突然近隣に建つことがないように規制する手段が市町村に整っていれば、こうした問題は起きません。同市では、詳細なゾーニングに加え、一定の条件下で建築を認める用途の場合に、近隣住民への告知、公聴会、委員会での審査など厳格な手続きを設けています。また、富士山のように美しいフッド山が見える眺望を遮ってはいけないという規定もあります。現在、アメリカの街の景観保全についての裁判を検索していますが、なかなか見つかりません。景観規制自体を不服として争うことは十分予想できますし、規制が不十分だったとして、行政を訴えることも考えられます。しかし、個人として景観に基づき個人を訴えるのは、こちらでも難しいのではないでしょうか。

もっとも、日本の都市計画法、建築基準法は、景観の保全までは全く配慮していません。景観法成立前で、行政による保全手段が不十分な状況の下、国立市では、住民が景観保全のために自主的に高さを揃えてきた歴史があります。ここでは、建築基準法どおりに最大限容積を使って建てれば、もっと儲かっていたであろう人々の個人の保護すべき法益があるように思います。1審判決はこれを根拠としています。原告団は、最高裁へ上告するそうですが、もう少しいい理屈がアメリカとの対比で見つからないかと日々考えています。

追伸

現在受講している土地利用法ゼミで、各人が、実際のケースを修正した事案につき模擬裁判(正確には委員会)を行っています。私は、住宅地に大規模老人ホームを建設する案に反対の役割で、答弁書の作成、委員会でのプレゼンテーションを行いました。言葉のハンデを乗り越えるため、理論をシンプルにして、実際の街の写真をいっぱい撮り、都心部から当該場所に歩いていくような形で並べ、いかにこの場所に不釣り合いかを強調する作戦をとりました。その結果、5対6で勝ちました。石塚さん、吉岡さんらまちづくり専門家のプレゼンテーションを見ていた成果が出ました。こちらでは、都市プランナーとは別に、土地利用専門の弁護士がこうしたことを行っています。日本でもできたら面白いですね。さて、上訴審では、立場を入れ替えるので、先週勝利した結果、今週中に提出しなければならない、いかに老人ホームが必要かをアピールする控訴状を作成中です。この変わり身の早さは弁護士育成のロースクールならではかもしれませんね。

写真1 オレゴンの人々が愛してやまないコロンビア渓谷の景観。景観保全のために建物を建てることは禁止されています。

写真2 ダムの魚道でサケの遡上が見えます。こちらのサケの遡上距離は半端じゃないです。カナダのロッキーまでのぼっていくそうです。そのため大味です。いくらが食べたい。室蘭さきもり駅下の味喜屋の三色丼は、世界一おいしい食べ物だと思います。

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