国連で行われた第16回持続可能な開発会議に参加してきました。

2008年5月国連持続可能な発展会議-持続可能な土地利用
(sustainable land use)について

2008年5月13日

弁護士菅澤紀生(札幌)

?昨年、人権大会シンポジウム第3分科会実行委員会は、日本の都市計画法に関連する問題点につき、各地の紛争事例、先進事例、欧米の法令等を参考にして、環境保全、持続可能性の観点から、土地利用法制の抜本的改訂を提言した。中でも、ドイツのLプラン、Fプランを参考に、土地の所有権は本来内在的制約があることを確認し、詳細計画があり、それに沿った開発、建築行為と認められた場合に、初めて開発、建築行為が可能となるという原則を中心概念として打ち出した。従前、日本の土地所有権の権利性の側面が強調されすぎて、土地利用規制が緩やかに過ぎ、さまざまな歪みが生じてきたところ、本シンポジウムでは、地球環境を保全する持続可能な都市を目指すべために、土地の規制方法を抜本的に改める必要性が確認された。

このたび、幸運にも、国連の持続可能な開発会議に参加することができ、地球環境保全のために、土地利用がいかに重要かを再確認され、さらに、上記シンポジウムの準備で研究不足であった重大な側面を認識することができた。各国の代表や専門家は、「土地は人の暮らしである」(Land is Life)と口々に述べていた。長年の問題である貧困問題に加え、近時の食料価格の高騰、食糧安全保障確保の問題の解決のために、「土地の権利保障」と「利用規制政策」が鍵となることが強調されていた。

発展途上国では、商業的農業の進展に伴い、土地の寡占化が進み、貧困の悪化、食糧危機が生じている。バイオ燃料の問題や、豪雨等の自然災害も、土地と人々をいっそう切り離す事情となっている。こうした場所では、人々、特に女性に土地所有権、使用権を保障し、土地の登記制度、紛争解決制度を整備することが急務とされている。将来世代の需要に応えることが可能な状態で、現在の需要に応えることが、持続可能な発展の定義とされているが、貧困の解消、食料安全保障は、後者の要件にかかる問題である。長期的な観点からの需要に応えるような土地利用の権利保障と規制を統合的に行っていくことは、森林保全などの自然保護をも含む課題である。

考えてみれば、日本でも、貧困解消、農村開発という課題は、そう遠い昔のことではない。戦後の農地改革や、民族社会学の宮本常一氏の著作から伺えるような農村開発運動は、まさしく現在国連で議論していることそのものといえる。日本の急速な経済発展は、全国総合開発計画等の土地利用政策と切っても切り離せない現象であり、それによる歪み、失敗も短期間のうちに経験している。日本の経験は、持続可能な土地利用を考えるにあたって、示唆に富むものである。したがって、この経験を世界に発信していくことは、日本の重要な役割といえる。この点、日本代表の国連一等書記官は、バイオ燃料の推進が、食料安全保障を圧迫することはあってはならないとして、科学技術の面で貢献したいと発言していた。日本における環境問題の議論は、どうしても公害克服の経験からか、技術的側面に偏ってしまっていると常々感じているところであるが、国連での議論もそのことを如実に表していた。また、残念ながら、戦後の農地改革、農村開発の問題は、私の知識経験には、まったく欠如しているので、その場で議論に貢献する力は無かった。

日弁連公害対策環境保全委員会では、大気都市部会が引き続き、都市計画の改革を検討し、自然保護部会が森林保全を検討している。また、温暖化についても別途組織が立ち上がろうとしている。大気都市部会では、環境省、国交省との意見交換を引き続いて行っていくことが予定されているところ、農水省、林野庁とも、国土全体の統合的な政策のため、さらには温暖化防止の観点から、意見交換が必要だと感じた。土地についての権利の内容も、さらに歴史的な検討が必要である。なお、都市交通の問題は、土地利用との統合の必要性、温暖化防止のために不可欠であるが、今回の土地利用の会議では議論の対象となっていなかった。この点は、ワールドウォッチ研究所「地球環境白書2007-08」が説得的に地球環境問題における位置づけ、重要性を指摘しているので、参考となる。日本は、伝統的に、鉄道開発と都市開発を連動して行ってきた歴史、いわばTODを先取りしてきたといえる面があり、これらの経験も途上国の発展、自動車利用抑制という地球温暖化対策に極めて有用と思われるので、この点の研究も継続して行っていく必要がある。

土地利用の会議のほか、農業・農村開発の会議にも出席したが、問題は表裏一体である。世界的規模で見れば、人々の土地についての権利を保障することが第一歩であり、その権利保障の内容を地域ごとの風土や伝統に応じた持続可能なものとしていかなければならない。そのためには、地方分権により、地域の人々が土地利用のあり方を長期的な観点で決定するシステム(decentralization)が必要である。このことは、日本の土地利用の問題でも最大のポイントであるところ、途上国の持続可能な土地利用についても、再三主張されていたことが興味深かった。

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