先日、元副大統領アル・ゴア氏の地球温暖化についての講演を聴いてきました。内容は、2004年、2005年の最新の気象データを交えた説得的なもので、大変感銘を受けました。過去40万年前からの二酸化炭素の増減と気候との関係、近時の二酸化炭素の急増、異常気象、氷河の後退度合い、北極南極の氷の喪失の度合いなど、科学的な論拠が、わかりやすく示され、かつ、ブッシュ政権の方向性への批判、未来への展望といった、政治家らしい主張も加味されていました。さすがに、クリントン政権下で京都議定書をリードしてきた、この分野における一流の政治家ならではの講演といえるものでした。

(会場のスクリーンを撮影したので見にくいですが、横軸が年代、縦軸は、白い線がCO2量、青い線が気温です。確実に連動していますが、現在及び近い将来のCO2量は過去の変動とは桁違いに高くなっています。)

実は、講演開始30分前に満員で締め切られてしまったのですが、会場に入れなかった群衆のアピールを受け、ゴア氏は講演終了後、再度同じ講演をしてくれることになりました。私は、その2回目に講演を聴いたわけです。ここポートランドでは、地球温暖化防止政策を押し出していたゴア氏が、未だ市民に根強くサポートされていることをうれしく思いました。クリントン任期満了後2000年の大統領選において、ブッシュ現大統領が、ゴア氏を破り大統領に就任すると、同大統領は、早々に京都議定書からの離脱を宣言しました。ですが、ポートランド市をはじめ、多数の地方政府は、京都議定書を支持する宣言をしており、同市は、独自政策により、議定書のアメリカの目標値である1990年比0%を実現しようとしています。

私の通うルイス&クラーク・ロースクールは、常に全米トップ3内にランクされるほど充実した環境法プログラムが売りですが、残念ながら国際環境法の授業は、捕鯨反対運動の旗手が担当しており、二酸化炭素削減は主要な議論の対象となっていません。アメリカの環境保護法は、生態系保護を目的としており、野生生物保護や土地利用について学ぶべき部分は極めて大きいものの、世界の二酸化炭素の三割を排出している国としての自覚はあまり感じられません。山の上の学校に自転車で通勤、通学するなど、教授、学生個々人の努力している姿には感心させられますが、まずは、皆が実践できる(日本人は実践しているから)こととして、晴れが続き乾燥している夏の間くらいは、乾燥機を使わないことから始めるべきだと思います。

さて、ブッシュ政権と二人三脚で進む小泉政権ですが、幸いにして、京都議定書の目標実現にはまじめに取り組んでいるようで、環境省の取組みや民間部門のグリーン開発メカニズムの実行などのニュースが、インターネットを通じて目に入ります。失望させられる外交のニュースばかりの日本の政治ニュースの中、唯一ほっとさせられる部分です。京都議定書などどこ吹く風というアメリカ生活の中で、他の世界はちょっとずつでも進んでいるんだなと希望を感じます。

とはいえ、今回の日本の衆議院選挙の結果は、残念、かつ意外なものとなりました。日本でテレビや新聞を見ていない分、マスコミがどのように今回の選挙を盛り上げていったのかを体感していないからでしょう。昨年秋のアメリカ大統領選では、民主党の候補者選択、民主党大会までは、テレビで民主党ばかり取り上げられていました。民主党が強いポートランドに生活していることもあって、ブッシュ政権は見限られてケリー候補が勝つのだろうと思っていました。しかし、民主党大会が終わると、テレビでは、共和党大会以降ブッシュ、チェイニーの露出度が高くなってきて、投票直前にはケリー候補はなんとなく影が薄くなってきた感じがしました。政治評論家森田実氏のウェブサイトなどによれば、今回の日本の衆議院選挙では、かなりの金額が、アメリカから広告会社に入り、日本のメディアを動かしたと言われています。郵貯340兆円が、当然に海外の会社も含む民間部門に解放されるわけですから、アメリカ側が必死になるのは当然でしょう。9月13日付けニューヨーク・タイムズでは、「日本の選挙での唯一の良い事」という見出しで、郵貯のことが触れられています。8月8日付けファイナンシャル・タイムズは、もっと露骨に、郵政法案否決後、「国際金融が、日本の$3,000ビリオン(3兆ドル:約330兆円)の預金を手にするには、もう少し待たなければならない。」と書いています。地方自治レベルの政策への市民参加を指向する私としては、あまりポピュリズムという言葉は好きでないのですが、やはりメディアを巻き込んだ単純かつ断言的な政治は恐ろしく、再考させられます。

ゴア氏の講演を聴いて、アメリカ市民が2000年の選挙でとても大きな間違いを犯したことを再認識しました。ここ5年間、世界の三割の二酸化炭素を排出するアメリカがまったく排出削減の努力をしてこなかったことは、ただでさえ手遅れという状況を確実に悪化させたといえるからです。少なくとも、程度の差はあれ現在の日本人が共有している「CO2を減らさなきゃ」という意識は、アメリカでは共有されていません。

ただし、アメリカでは、常に議会と大統領は牽制しあっていますし、野党たる民主党の力も強いです。また、党議拘束もほとんどなく、法案ごとに票集めをしなければならないようです。さらに、歴史的に見ると、最高裁判所が政治の揺れ動きに対し、大なたを振るってきました(現在の保守派主流の最高裁が各種環境法の実行を阻止しているのは残念ですが。)。州の権力の強さも日本からでは見えない部分です。ブッシュ大統領自身、2000年選挙は最高裁判所の判断によってはひっくり返るほど、2004年も最後の州の開票を待つまで勝敗が決まらないほど、僅差の勝利でした。新保守主義が、8年間続くことになりましたが、その立場は到底安泰とはいえません。アメリカの民主主義は、9.11のような事象によって大きく一定方向に揺れる性質はあるものの、かなり込み入った抑制と均衡が働いていることを実感します。

他方で、日本では、従来の自民党の政治を捨て、小さな政府という新保守主義を明確に打ち出した小泉自民党が圧倒的勝利を収めました。小泉首相は、これまでと同様に、中国、韓国を挑発しながらブッシュ政権に追従していくのでしょうが、選挙の結果は、これを追認した形になりました。小さな政府を高らかに謳っていたサッチャーもレーガンも20年も前の人達です。アメリカですら半数近くの人々が疑念を持っている新保守主義を、得票率はともかくも、憲法が各種ラインを引いている2/3の議席を与えるほど、国民が支持する結果となりました。国会が内閣を止めることができません。これまで機能していた自民党内の権力均衡も機能しなくなりそうです。日本は、孤立の道をひたすら進むことにならないでしょうか。日本の市民も大きな間違いを犯したと思えてなりません。環境政策だけは、ブッシュ政権の言いなりにならないようにと願うばかりです。

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